工期に追われて眠れない日が続いている。職人と施主の間で板挟みになり、朝、現場に向かう足が重い。「現場監督 精神崩壊」と検索した人の多くは、自分がおかしいのか、それともこの仕事ではよくあることなのかを知りたいのだと思います。

「精神崩壊」は医学の言葉ではありませんが、仕事が原因でうつ病や適応障害などを発病した人の数は、国の労災の統計に出ています。建設業では2024年度(令和6年度)の1年間に98件が仕事による精神障害と認められ、そのうち15件は自殺(未遂を含む)でした。この記事では、厚生労働省の労災の統計、国が「強い負荷」と判断する労働時間の線、実際に亡くなった施工管理者の事案の研究から、何が起きているのかを確かめます。

確かめたこと分かったこと
建設業の精神障害の労災2024年度に請求246件・支給決定98件。決定のうち仕事が原因と認められた割合は44.3%で、業種の大分類の中で最も高い(全業種は28.2%)
自殺(未遂を含む)全業種で認められた76件のうち15件が建設業。建設業の支給決定に占める割合は15.3%で、全業種の7.0%の2倍を超える
施工管理者が入る職種「建築・土木・測量技術者」で34件(うち自殺5件)。支給決定の多い職種の10位
国が「強」と見る労働時間発病前の1か月に約160時間、2か月続けて月約120時間、3か月続けて月約100時間の時間外労働
亡くなった現場の管理者の事案研究で分析された3件は、3社とも従業員50人未満で産業医がいなかった。2件は申告した時間と実際の時間が大きく違っていた
小さな会社の仕組みストレスチェックは50人未満の事業場では努力義務。2028年4月1日から義務になる。長時間労働の医師の面接指導は、規模を問わず今も義務
出典:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)、労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センターの分担研究報告書(令和4年度)、労働安全衛生法をもとに当サイト作成。「2024年度」は統計の対象期間(2024年4月〜2025年3月)で、厚生労働省の表題は「令和7年度」。

建設業の精神障害の労災は年98件。認められる割合が高い

厚生労働省は毎年、仕事による脳・心臓疾患と精神障害の労災がどれだけ請求され、認められたかを公表しています。2026年7月に出た最新の表(令和7年度の公表分。集計は2024年4月〜2025年3月)から、建設業と全業種を並べます。

建設業 2024年度全業種 2024年度建設業 2023年度全業種 2023年度
請求件数246件4,958件192件3,780件
決定件数221件3,839件177件3,496件
うち支給決定件数98件1,082件81件1,056件
認定率(支給決定÷決定)44.3%28.2%45.8%30.2%
支給決定のうち自殺(未遂を含む)15件76件14件88件
出典:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」別添資料2 表2-1・表2-2(業務災害に係る精神障害)。表の年度は統計の対象期間で書いた。請求件数はその年度に請求された件数、決定件数はその年度に支給・不支給を決めた件数で、前の年度に請求されたものを含む。支給決定件数は、決定のうち仕事が原因(業務災害)と認めた件数。認定率は当サイトで計算。

表の言葉を先に確かめておきます。請求は、本人や遺族が労働基準監督署に労災保険の給付を求めた件数です。決定は、監督署が調べて「仕事が原因」「仕事が原因ではない」のどちらかを決めた件数で、支給決定がそのうち仕事が原因と認めた件数です。

2024年度の建設業の支給決定は98件で、全業種の1,082件の9.1%でした。件数だけなら、医療・福祉(292件)、製造業(158件)、卸売業・小売業(116件)、運輸業・郵便業(104件)の方が多い業種です。

違いが出るのは割合です。建設業では、決定した221件のうち98件、44.3%が仕事が原因と認められました。全業種では28.2%です。表2-2の業種の大分類12区分でそれぞれ計算すると、建設業の割合は2024年度も2023年度(45.8%)も12区分の中で最も高い数字でした。

もう一つは自殺です。全業種で仕事が原因と認められた自殺(未遂を含む)76件のうち、15件が建設業でした。建設業の支給決定98件の中で見ると15.3%で、全業種の7.0%の2倍を超えます。2023年度も、建設業は81件中14件(17.3%)、全業種は1,056件中88件(8.3%)で、同じ傾向でした。

ただし、この統計が示しているのは、請求して審査された件数だけです。調子を崩しても請求しなかった人は数に入っていません。また、認められる割合が高い理由を統計は説明していません。ここから言えるのは、建設業で請求された精神障害は、仕事が原因と認められることが多いということまでです。

施工管理者が入る職種でも34件。うち5件が自殺

同じ統計は、業種の中分類と職種の中分類でも、支給決定の多い上位15を公表しています。建設業からは2つの業種が入っています。

順位業種(中分類)支給決定うち自殺
1社会保険・社会福祉・介護事業151件1件
2医療業139件1件
3道路貨物運送業68件3件
4総合工事業(建設業)51件5件
5飲食店45件2件
6設備工事業(建設業)30件6件
出典:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」別添資料2 表2-2-2(上位15業種のうち6位まで)。総合工事業はゼネコン・工務店など、設備工事業は電気・管・空調などの工事業。

総合工事業はゼネコンや工務店、設備工事業は電気工事や管工事などの会社です。設備工事業は支給決定30件のうち6件が自殺で、上位15業種の中で自殺の件数が最も多い業種でした。

職種で見ると、施工管理者が入るのは「建築・土木・測量技術者」です。総務省の日本標準職業分類は、この職種を「建築・土木・測量における計画・設計・工事監理・技術指導・施工管理・検査などの技術的な仕事に従事するもの」と説明しています。2024年度の支給決定は34件で上位10位、そのうち5件が自殺でした。職人として現場で作業する人は別の職種(建設・採掘従事者、43件)に分けられています。

電気や設備の施工管理者は、会社や仕事の中身によって電気技術者など別の職種に入ることもあるので、34件が施工管理者のすべてではありません。それでも、施工管理の仕事をしている人が、毎年まとまった数、仕事による精神障害と認められていることは確かです。

国が「強い負荷」と判断する労働時間の線

労働基準監督署が精神障害を仕事が原因と認めるかどうかは、厚生労働省の認定基準で判断します。2023年9月に改正された今の基準は、発病前のおおむね6か月の間に、仕事による強い心理的負荷があったかを見ます。労働時間についての線は、次の通りです。

時間外労働の状況(発病前)評価
直前の1か月におおむね160時間を超える(3週間で120時間以上なども)それだけで「強」(極度の長時間労働)
直前の連続した2か月に、1か月あたりおおむね120時間以上「強」
直前の連続した3か月に、1か月あたりおおむね100時間以上「強」
1か月におおむね80時間以上「中」
1か月以上にわたって休日のない連続勤務「強」
2週間以上にわたって休日のない連続勤務「中」
出典:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)本文と別表1「業務による心理的負荷評価表」の項目12・13。時間外労働は、1週40時間を超えて働いた時間。

「強」は、それだけで仕事が原因と認められうる強さ、「中」は、他の出来事と合わせて判断される強さです。認定基準は、1か月おおむね100時間の時間外労働を「恒常的長時間労働」とも呼び、その状態で起きた出来事は、ふだんより強く評価するとしています。

長時間労働は一般に精神障害の準備状態を形成する要因となることから、恒常的な長時間労働の下で発生した出来事の心理的負荷は平均より強く評価される必要があると考えられ

出典:心理的負荷による精神障害の認定基準について(令和5年9月1日基発0901第2号)(厚生労働省)

施工管理の仕事と重なる出来事も、評価表に並んでいます。例えば「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」の「中」の例には、「大幅な値下げや納期の繰上げ、度重なる設計変更等」が挙がっています。工期の終盤に設計変更が重なり、残業が月100時間を超える状態が続けば、国の基準で見ても強い負荷がかかっていることになります。

建設業には2024年4月から残業の上限規制が適用され、特別条項があっても休日労働を含めて月100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内です。上限いっぱいまで働くと、認定基準で「中」になる月80時間の線に届きます。上限規制の中身と、現場の残業がどれだけ減ったかは施工管理の残業時間は減った? 上限規制の前と後を統計で見るで扱っています。

亡くなった現場の管理者の3つの事案で起きていたこと

統計の数字だけでは、現場で何が起きていたのかは分かりません。労働安全衛生総合研究所の過労死等防止調査研究センターは、労災と認められた事案の調査記録を分析しています。2022年度(令和4年度)の報告書は、建設業で「極度の長時間労働」が原因とされた自殺の3事案を、労務管理の視点から読み解いています。3人の立場は、機械設備工事の一次下請で現場代理人を務める施工管理者、分譲マンションの元請で現場監督(所長)、賃貸物件のリフォームの工事監理部で現場管理をしていた人です。

立場現場発症前1か月の時間外労働
事案1現場代理人(施工管理)・一次下請自然災害の復旧工事(学校)の機械設備工事約250時間
事案2現場監督(所長)・元請分譲マンションの新築約190時間
事案3現場管理・元請賃貸物件の退去時リフォーム直前3週間で約130時間
出典:労働安全衛生総合研究所「建設業における過労死等事案の労務管理視点からの分析」(令和4年度 分担研究報告書)別添1。事案2は2019年4月より前に起きた事案。
報告書が挙げた要因事案1事案2事案3
工期の逼迫○○—
会社・業界の風土○○○
不適切な労働時間管理○○—
労働時間は把握しているが実効性のある対応策がない——○
人員を増やしたが業務の軽減につながらない○○—
上司の支援不足○○○
健康面の支援不足○—○
達成困難なノルマを課せられる—○—
出典:独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所「建設業における過労死等事案の労務管理視点からの分析」(令和4年度 分担研究報告書)表3。○は各事案に当てはまると読み取れたもの。

報告書から、施工管理の仕事と重なるところを抜き出します。

報告書は、3つの事案の共通点をこう書いています。

今回の事案はすべて50 人未満の中小零細企業であり、産業医の選任はされていなかった。

出典:建設業における過労死等事案の労務管理視点からの分析(令和4年度 分担研究報告書)(労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター)

報告書は、長時間労働の背景に「発注者、元請や親事業等からの強い要請」があり、下請や子会社はそれに応じなければならない関係と業界の風土があったとまとめています。個人の弱さや向き不向きではなく、工期と人員と時間の管理の問題として書かれていることは、今つらい人にとって知っておいてよい点です。

50人未満の会社は、法律の仕組みが薄い

3つの事案がすべて50人未満の会社だったことには、法律の線が関係しています。労働安全衛生法では、次の仕組みが従業員の人数で分かれています。

仕組み50人以上の事業場50人未満の事業場
産業医の選任義務(安衛法第13条、施行令第5条)医師などに健康管理を行わせるよう努める(第13条の2)
ストレスチェック年1回の実施が義務(第66条の10、規則第52条の9)今は努力義務。2028年4月1日から義務
長時間労働の医師の面接指導義務(第66条の8)義務(人数による区別はない)
労働時間の状況の把握義務(第66条の8の3)義務(管理監督者も対象)
出典:労働安全衛生法、同法施行令、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索、2026年9月26日確認)をもとに当サイト作成。事業場は会社全体ではなく、支店や営業所などの単位で数える。

ストレスチェックの50人未満の扱いは、労働安全衛生法の附則にある次の特例によるものです。

第十三条第一項の事業場以外の事業場についての第六十六条の十の規定の適用については、当分の間、同条第一項中「行わなければ」とあるのは、「行うよう努めなければ」とする。

出典:労働安全衛生法 附則第4条(e-Gov法令検索)

2025年に成立した改正法(令和7年法律第33号)で、この特例はなくなります。e-Gov法令検索で施行日ごとの条文を比べると、2027年4月時点の条文にはこの特例が残り、2028年4月1日施行の条文ではなくなっています。それまでは、50人未満の会社でストレスチェックを受けたことがない人がいても、法律違反ではありません。

一方で、長時間労働をした人の医師による面接指導は、会社の規模に関係なく義務です。労働安全衛生規則は、対象を次のように決めています。

法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。

出典:労働安全衛生規則 第52条の2第1項(e-Gov法令検索)

面接指導は、対象になる人が申し出たときに行うものです(同規則第52条の3)。会社は、時間外労働が月80時間を超えた人に、その時間を知らせなければなりません(第52条の2第3項)。また、会社が労働時間の状況を把握する義務(安衛法第66条の8の3)は、所長のような管理監督者も対象です。事案2のように「所長だから時間を管理しない」という扱いは、今の法律では通りません。

限界が近いと感じたら、今できること

ここまでの内容を、今の自分に当てはめて使えるように並べます。どれも、辞めるかどうかを決める前にできることです。

研究で見た3つの事案は、どれも工期と人員を決める側の問題が大きく、本人が頑張り方を変えれば防げたという書かれ方はされていません。同じ施工管理でも、工期の決め方、応援の出し方、労働時間の管理の仕方は会社によって大きく違います。今の会社で変わる見込みがないなら、会社を変えることも選択肢に入ります。会社ごとの違いを国のデータで確かめる方法は施工管理のホワイト企業の見分け方は? 国のデータで確かめるにまとめています。

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この記事の数字と判断について

参考にした資料