足場の点検を任されるようになった施工管理者や、元請から「点検者は研修を受けた人に」と言われた人もいるはずです。まず気になるのは、「施工管理者等のための足場点検実務者研修」を受けないといけないのか、という点でしょう。講習の案内には「必要」と読める書き方もあり、判断に迷います。
結論から言うと、この研修を受けることは法律上の義務ではありません。2023年10月の改正で義務になったのは、点検者を指名することと、点検者の氏名を記録することです。研修は、国の通達が「十分な知識・経験を有する者」の例として挙げている4つのうちの一つで、通達の言い方は「望ましい」です。この記事では、労働安全衛生規則の条文と厚生労働省の通達から、何が義務で何が推奨なのかを分けて確かめます。1級・2級の施工管理技士なら、研修を受けなくても同じ条件を満たせる場合があることも見ていきます。
| 確かめたこと | 分かったこと |
|---|---|
| 研修は義務か | 義務ではない。通達は、研修の修了者など一定の能力を有する者を指名することが「望ましい」としている |
| 2023年10月から義務になったこと | 足場の点検で点検者を指名すること。組立て・変更・悪天候などの後の点検では、結果と点検者の氏名を記録して保存すること |
| 研修が関係する点検 | 足場の組立て・一部解体・変更の後や、悪天候・中震以上の地震の後の点検。毎日の作業開始前の点検は職長等から指名する |
| 研修と同じ扱いになる人 | 足場の組立て等作業主任者で能力向上教育を受けた人、計画作成参画者の資格がある人、仮設安全監理者の講習を受けた人 |
| 施工管理技士の場合 | 1級土木・1級建築の施工管理技士は、安全衛生の実務3年以上などを満たせば計画作成参画者の資格がある |
| 研修の中身 | 4時間(災害事例と関係法令1時間、足場の組立て等の安全施工と保守管理3時間)。受講料は支部によって違い、およそ1万円前後 |
研修は法律の義務ではない。通達の言葉は「望ましい」
足場の点検について定めているのは、労働安全衛生規則(安衛則)の第567条です。組立てや変更の後の点検について、条文は次のように書いています。
事業者は、強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後において、足場における作業を行うときは、点検者を指名して、作業を開始する前に、次の事項について点検させ、異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。
出典:労働安全衛生規則 第567条第2項(e-Gov法令検索)
条文が求めているのは「点検者を指名して」点検させることです。どんな資格や講習を受けた人を指名するかは、条文には書かれていません。点検者の条件について述べているのは、改正と同じ日に出た厚生労働省の施行通達です。
改正安衛則第567条第2項及び第655条第2項第2号に規定する点検者については、足場の組立て等作業主任者であって、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講した者等、「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」(令和5年3月14日基安発0314第2号。以下「推進要綱」という。)別添の3(2)に示す一定の能力を有する者を指名することが望ましいこと。
出典:足場からの墜落・転落災害防止の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(令和5年3月14日基発0314第2号)(厚生労働省)
通達が参照している推進要綱の別添3(2)には、「十分な知識・経験を有する者」の例として、次の4つが並んでいます。研修はその4つ目です。
| 推進要綱が挙げる例 | 行っているところ | |
|---|---|---|
| ① | 足場の組立て等作業主任者であって、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講している者 | 建設業労働災害防止協会の支部、登録教習機関など |
| ② | 労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築)等、足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者 | 講習ではなく資格・経験で決まる(後述) |
| ③ | 「仮設安全監理者資格取得講習」を受けた者 | 全国仮設安全事業協同組合 |
| ④ | 「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた者 | 建設業労働災害防止協会 |
推進要綱は「〜等、十分な知識・経験を有する者から指名すること」と書いており、4つは例示です。法令の義務と推進要綱の関係は、施行通達の「望ましい」という言葉の通りです。
では、なぜ条文に資格の条件が入らなかったのか。改正のもとになった厚生労働省の実務者会合の資料には、次の経緯が書かれています。
- 組立て等の後の点検は専門的な事項が多いので、点検者は研修を受ける等、一定の能力を有していることが適切。
- 令和3年度の労働基準監督署の調査では、4つの例に当たる点検者は約55%で、年々増えている。
- ただし、点検者の能力と労働災害や法令違反との関係が必ずしも明確ではなく、点検者の能力を法令上明確にするという結論には至らなかった。
- そのため、今後3年間程度を目途に調査を行ったうえで、改めて点検者の要件を検討する。
つまり、資格の条件を法令に入れるかどうかは「いったん見送り、あとで改めて検討する」という扱いになっています。2026年9月時点のe-Gov法令検索の安衛則第567条にも、点検者の資格の条件は入っていません。今後、条文が変わる可能性はあるので、点検者の選び方を決めるときは最新の条文と通達を確かめてください。
2023年10月から義務になったのは「指名」と「記録」
2023年(令和5年)10月1日に施行された改正で、足場の点検について義務になったのは次の2つです。改正の理由について、施行通達は「安衛則で義務付けられている足場の点検が行われていない事例が散見されている」ことを挙げています。厚生労働省の実務者会合の資料によると、令和元年〜3年に足場の通常作業中に起きた死亡災害のうち、確認できた28事例中7事例では、決められた点検が行われていませんでした。
- 点検者を指名すること(安衛則第567条第1項・第2項、第568条、第655条第1項第2号)
- 組立て等の後の点検の記録に、点検者の氏名を加えること(安衛則第567条第3項、第655条第2項)
足場の点検には2種類あり、義務の中身も、研修が関係するかどうかも違います。
| 作業開始前の点検 | 組立て等の後の点検 | |
|---|---|---|
| いつ | 足場で作業をする日の、その日の作業を開始する前 | 組立て・一部解体・変更の後、強風・大雨・大雪などの悪天候や中震以上の地震の後、作業を開始する前 |
| 何を見るか | 作業を行う箇所の手すりなど足場用墜落防止設備の取り外しと脱落の有無 | 床材、緊結部、緊結金具、墜落防止設備、幅木、脚部、壁つなぎなど9項目 |
| 条文 | 安衛則第567条第1項 | 安衛則第567条第2項(注文者は第655条第1項第2号) |
| 点検者の指名 | 義務 | 義務 |
| 記録と保存 | 条文上の義務はない | 結果・点検者の氏名・補修の内容を記録し、足場を使う仕事が終わるまで保存 |
| 推進要綱が示す点検者 | 職長等、その足場を使う労働者の責任者 | 研修の修了者など4つの例に当たる、十分な知識・経験を有する者 |
研修の話が出てくるのは、右側の組立て等の後の点検だけです。毎朝の作業開始前の点検は、推進要綱も職長等から指名するとしていて、研修の修了は求めていません。
指名の方法について、施行通達は書面に限らず、朝礼などで口頭で伝える方法、メールや電話で伝える方法、あらかじめ点検者の順番を決めておく方法も含まれるとしています。そのうえで、点検者が「自分が点検者である」という認識を持って責任を持って点検できる方法で行うこと、としています。
元請の施工管理者にとって大事なのは、注文者にも同じ点検の義務があることです。安衛則第655条は、建設業などで仕事を自ら行う注文者が、請負人に係る作業従事者に足場を使わせるときに、組立て等の後の点検と記録を求めています。下請の足場業者が点検していても、元請として別に点検し、点検者の氏名を記録する必要があります。
これらの規定に違反した場合の罰則は、労働安全衛生法第119条の「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。同条は、事業者の措置義務(第20条〜第25条)や注文者の措置義務(第31条第1項)の違反を対象にしています。罰則の対象になるのは、点検や指名、記録をしないことで、研修を受けていないことではありません。
点検者は、足場を組み立てた本人以外から選ぶ
研修の有無より見落とされやすいのが、推進要綱の次の一文です。組立て等の後の点検者について、こう書いています。
上記ア及びイの点検者は、足場の組立て等の作業に直接従事した者、当該作業の作業主任者及び作業指揮者等の当事者以外の者とすること。
出典:足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱 3(5)エ(厚生労働省)
組み立てた人が自分で点検すると、見落としに気づきにくいためです。ただし推進要綱は、次の2つの場合には当事者に点検させても差し支えないとしています。
- 従業員数の少ない事業者や注文者で、組立ての当事者以外に、足場の点検について十分な知識・経験を持つ人を確保できない場合
- 事業者と注文者の双方が点検を行う場合。その場合も、事業者と注文者による点検は確実に行う
足場業者の作業主任者が組み立て、同じ人が点検して終わり、という形は、この一文に合いません。組立てに加わっていない元請の施工管理者は、この条件に当てはまる立場にいます。
研修の中身は4時間。受講料は支部によって違う
「施工管理者等のための足場点検実務者研修」は、建設業労働災害防止協会(建災防)の都道府県支部が開いています。受講できる人は、各支部とも次のどちらかです。
- 建設工事の施工管理の実務に従事した経験のある者
- 店社の安全衛生部門で、足場の設置計画書の審査や工事現場の安全パトロールなどの業務を担当している者
科目と時間は、福岡県支部の案内では次の通りです。
| 科目 | 範囲 | 時間 |
|---|---|---|
| 災害事例及び関係法令 | 足場の墜落関連災害事例とその防止対策/労働安全衛生法令のうち足場の組立て等に関する条文(省令の改正部分を含む) | 1時間 |
| 足場の組立て等の安全施工と保守管理 | 足場・部材等の種類と特徴/組立て・変更時の点検のポイントと記録等/組立て・変更後等の保守管理 | 3時間 |
| 計 | 4時間 |
受講料は支部ごとに決めていて、同じ研修でも金額が違います。2026年9月24日に確認した3つの支部の例です。
| 支部 | 受講料+テキスト代(税込) | 時間の例 |
|---|---|---|
| 大阪府支部 | 一般 11,815円(会員 11,315円) | 13:00〜17:10 |
| 茨城県支部 | 10,500円 | 8:50〜14:00(会場で異なる) |
| 福岡県支部 | 非会員 9,845円(会員 8,943円) | — |
開催は支部ごとに年に数回で、満席になる回もあります(福岡県支部の2026年10月6日の回は、確認した時点でキャンセル待ちでした)。茨城県支部は、建災防の支部で足場の組立て等作業主任者能力向上教育を修了した人は、同じテキストを使うので内容が重複し、この研修の受講は不要と案内しています。作業主任者で一定の実務経験がある人には、この研修ではなく能力向上教育を勧めています。
施工管理技士なら、研修なしで条件を満たすことがある
推進要綱の4つの例のうち、②の「計画作成参画者に必要な資格を有する者」は、講習ではなく資格と経験で決まります。計画作成参画者とは、高さ10メートル以上の足場などを設置するときに労働基準監督署へ出す計画の作成に加わらなければならない人のことです(労働安全衛生法第88条第4項)。その資格は、安衛則の別表第九に書かれています。足場の工事の欄は次の通りです。
一 次のイ及びロのいずれにも該当する者
出典:労働安全衛生規則 別表第九(第92条の3関係)(e-Gov法令検索)
イ 次のいずれかに該当する者
(1)足場に係る工事の設計監理又は施工管理の実務に三年以上従事した経験を有すること。
(2)建築士法第四条第二項に規定する一級建築士の免許を受けることができる者であること。
(3)建設業法施行令第三十七条に規定する一級土木施工管理技術検定又は一級建築施工管理技術検定に合格したこと。
ロ 工事における安全衛生の実務に三年以上従事した経験を有すること又は厚生労働大臣の登録を受けた者が行う研修を修了したこと。
二 労働安全コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が土木又は建築であるもの
三 その他厚生労働大臣が定める者
ポイントは、イとロの両方が要ることです。1級土木・1級建築の施工管理技士に合格していても、それだけでは足りず、工事の安全衛生の実務3年以上(または登録研修の修了)が加わって初めて資格になります。逆に、1級に受かっていなくても、足場の工事の施工管理3年以上と安全衛生の実務3年以上があれば当てはまります。
「三 その他厚生労働大臣が定める者」には2級の道もあります。労働基準監督署が計画の届出で使う「参画者の経歴」の様式(愛媛労働局)と、建災防茨城県支部の案内に載っています。2級建築士、または2級土木・2級建築施工管理技術検定の合格者で、足場の工事の設計監理か施工管理の実務が2年以上あり、安全衛生の実務も3年以上ある人です(安全衛生の実務の代わりに登録研修の修了でもよい)。
| あなたの状況 | 推進要綱の②に当たるか | 研修の意味 |
|---|---|---|
| 1級土木または1級建築の施工管理技士+安全衛生の実務3年以上 | 当たる | 条件を満たすためには要らない。知識の確認として受けるかは任意 |
| 2級土木または2級建築の施工管理技士+足場の施工管理2年以上+安全衛生の実務3年以上 | 当たる | 同上 |
| 技士の資格はあるが、安全衛生の実務がまだ3年ない | まだ当たらない | 4時間で条件を満たせる近道 |
| 電気工事・管工事など、土木・建築以外の施工管理技士 | 技士の資格だけでは当たらない(足場の施工管理3年+安全衛生の実務3年の道はある) | 近道になりやすい |
| 資格はまだない若手 | 当たらない | 近道になりやすい |
施工管理技士の7種類と、1級・2級でできることの違いは施工管理の資格とは? 7種類の技士と29業種の対応を法律で整理で扱っています。
なお、元請から「点検者は研修の修了者に」と言われた場合、それは法令の義務ではなく、その現場や会社の決まりです。決まりとして求められているなら、それに従うことになります。
研修を受けても、点検の責任を負うのは会社
安衛則第567条の主語は「事業者は」、第655条の主語は「注文者は」です。点検者を指名し、点検させ、異常があれば補修し、記録を残す義務を負うのは会社で、点検者個人ではありません。研修の修了者を指名したから会社の義務が軽くなる、ということもありません。
一方で、指名された施工管理者が名前を記録に残すことには意味があります。改正の趣旨は「点検者自らが点検者であるという認識を持ち、責任を持って点検ができるよう」にすることでした(推進要綱の前文)。施工管理者が日々行う安全の仕事、例えば元請の毎作業日の巡視は施工管理とは? 仕事内容・4大管理・1日の流れを法律から整理でまとめています。
点検者を研修に出すか、講習の費用や時間を会社が持つかは、会社ごとに違います。国の経営事項審査には、技術者の継続教育(CPD)や法定外の労災補償など、人への投資を点数にする項目があり、施工管理のホワイト企業の見分け方は? 国のデータで確かめるで見方を紹介しています。
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この記事の数字と判断について
- 点検者の資格の条件は、2026年9月時点では法令ではなく通達(推進要綱)で示されています。実務者会合の資料には「今後3年間程度を目途に」改めて検討するとあるので、今後、法令に入る可能性があります。
- 研修の受講料・日程・時間は、建災防の支部ごとに違い、改定されることがあります。この記事の金額は2026年9月24日に3つの支部の案内で確認したものです。
- 計画作成参画者の「実務経験」に当たるかどうかは、個別の経歴によって判断されます。
- 罰則の条文は、2025年6月から「懲役」が「拘禁刑」に改められています。
参考にした資料
- 労働安全衛生規則(第92条の3・第567条・第568条・第655条・別表第九)|e-Gov法令検索
- 労働安全衛生法(第21条・第31条・第88条・第119条)|e-Gov法令検索
- 足場からの墜落・転落災害防止の充実に係る労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(令和5年3月14日基発0314第2号)|厚生労働省
- 足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱の改正について(令和5年3月14日基安発0314第2号)|奈良労働局掲載
- 足場の安全点検に関する具体的措置について(建設業における墜落・転落災害防止対策の充実強化に関する実務者会合 資料)|厚生労働省
- 足場の安全点検について(同実務者会合 資料)|厚生労働省
- 参画者の経歴(型枠支保工・足場)様式|愛媛労働局
- 施工管理者等のための足場点検実務者研修|建設業労働災害防止協会 福岡県支部
- 施工管理者等のための足場点検実務者研修|建設業労働災害防止協会 大阪府支部
- 施工管理者のための足場点検実務者研修|建設業労働災害防止協会 茨城県支部
